A. 腋窩神経(C5.6)
腕神経叢の後神経束より分岐し、後上腕回旋動脈と共に肩関節の下方を後方へと進み、筋枝は小円筋、三角筋を支配する
皮枝は上外側上腕皮神経となり上腕の外側および背側を支配する
B. 腋窩神経の絞扼障害
腋窩神経は骨折や脱臼といった外傷により損傷される事は良く知られているが、ここでは絞扼障害の発生機所について説明する
腋窩神経の絞扼障害は、神経の走行経路である肩関節後面部において生じやすい
上腕三頭筋長頭、大円筋、上腕骨、肩関節包で囲まれた部位は「四辺形間隙」と呼ばれ臨床的に重要
腋窩神経は、この裂隙の通過時に走行を変えるため、障害を受けやすい
投球動作の繰り返しは肩甲骨関節窩後下方に骨棘を生じさせやすいが、この骨棘もやはり「四辺形間隙」において神経の圧迫・刺激因子となる
C. 臨床症状および診断
肩関節後方から外側にかけての疼痛、脱力感、しびれ感
三角筋、小円筋の麻痺は、症例により程度が様々であるが、進行例では萎縮が高度となり挙上不能となる
「四辺形間隙」での障害では、同部の圧痛、Tinel様徴候が生じる
投球動作で症状が増悪する症例では、Bennet病変の有無を画像確認する
単純X線の場合、肩の挙上位で軸射撮影する
超音波検査の場合、肩甲骨関節窩の6時から9時の位置を狙う
D. 治療法および予後
まずは保存療法にて経過観察を行なうが、改善の伴わない症例では、手術的に「四辺形間隙」を展開し、神経剥離が行われる
D-1. マッサージ
関節窩後下方の骨棘により神経が絞扼されている場合、その成因となる三頭筋長頭の牽引力を除去する必要がある
上腕三頭筋のストレッチおよびマッサージにより上腕三頭筋の柔軟性を獲得する
投球動作などのoveruseが疑われる場合には安静を指示する
【上腕三頭筋】
患者腹臥位、肘伸展、肩関節軽度伸展位とし、上腕三頭筋の筋緊張を除去したら、上腕三頭筋を遠位から手掌で把持、四指手掌面と母指球とで加圧する
数回の加圧で筋線維がほぐれたら、近位に手掌を移動させて順次揉捻していく
上腕三頭筋全体を一通りマッサージしたら、上腕三頭筋内側頭に移る
上腕骨体後面3/4に起始する内側頭は、その骨との付着部を指腹で加圧していく
しかしながら注意しなければならないのは、上腕内側面に存在する上腕三頭筋と上腕二頭筋の谷間には、正中神経、尺骨神経、上腕動静脈、尺側皮静脈など、複数の神経や血管が走行するため、この部を避けた、谷間の1㎝後面の筋腹を骨に垂直に加圧していくのが望ましい
上腕骨遠位後内側面から近位後内側面にかけて上腕骨を縦断するように加圧していく
上腕三頭筋外側頭は肘頭の停止部より5㎝ほど近位から2つの筋腹に別れて、上腕骨体外側面に向かう
その筋腹を母指の指腹と示指の側面とで把持し、筋線維をたどりながら揉捻していく
上腕骨の付着部では筋は腱となり柔軟性を失っているため、左右に横断するように力強くマッサージする
上腕三頭筋長頭は肘頭の停止部より5㎝ほど近位から2つの筋腹に別れて、肩甲骨の関節下結節に向かう
その筋腹を母指の指腹と示指の側面とで揉捻する
近位は三角筋後壁に隠れる所まで行なう
三角筋後壁に上腕三頭筋長頭が隠れたら、腋窩後面より長頭腱に指をかけて、上腕骨そして関節窩下から離す方向、つまり内下方へ牽引する
これは上腕三頭筋長頭のマッサージと共に「四辺形間隙」の拡大を意図したものである
【大円筋】
大円筋のマッサージは起始から始める
患者腹臥位
肩甲骨下角である起始部を外側より指腹を当て加圧する
筋腹は肩甲骨外側縁と広背筋上縁との間で体表に位置するため、体幹もしくは肩甲骨に向かって加圧する
腋窩総後部は神経・血管の走行が密になっているため無理に行わない
大円筋が停止する小結節稜は、上腕を最大内旋位とし、腋窩から烏口腕筋の後面に指を差し込むと触知できる
骨に向かって加圧して、ゆすりながら揉捻する
全体をマッサージしたら、一方の手掌で肩甲骨を固定しながら母指で大円筋の筋腹をベット方向に押し込む
押し込んだ状態のまま、他方の手で上腕骨を伸展・外転・外旋方向に操作し「四辺形間隙」の拡大を図る
【小円筋】
小円筋は起始部から筋腹を肩甲骨外側縁に向かって、指腹を押し当てて揉捻する
小円筋の停止部は、上腕骨大結節の背側面であるため、背側から揉捻する
最後に「四辺形間隙」から大結節までの線維を、体表から確認して下方から上方へ押し上げるように圧を加えて「四辺形間隙」の拡大を図る
D-2. 冷却
関節窩後下方の骨棘は腋窩神経を圧迫するのみならず、直上を走行する小円筋の炎症性変化をもたらす
炎症症状の著しい場合はアイスパック等で冷却を行なう
炎症症状の有無は発赤、熱感、痛覚過敏などの症状で判断できる
末梢神経症状が痺れでなく痛みの場合、絞扼部位には炎症メディエーターが存在しているはずである
D-3. 障害神経への圧刺激
「四辺形間隙」より体表に表れる後上腕回旋動脈および上外側上腕皮神経を、神経の走行に沿って指圧を加えていく
絞扼により圧迫された神経や血管組織の走行に沿って外から圧を加えることで、神経や血管組織に、外へ向かう力を間接的に生じさせる

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