2020年2月6日木曜日

正中神経(median nerve)障害の症状及び治療法


A. 正中神経(C5-T1
腕神経叢の内側神経束と外側神経束が合流して形成される
上腕部で上腕動脈と伴行して肘窩を経由し、前腕しょう浅指屈筋と深指屈筋との間を下行する
手根部で屈筋腱と共に手根管を通り手掌に至る

筋枝と皮枝を含む混合性の神経であり、筋枝は前腕と手掌の屈筋郡(円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、長母指屈筋、方形回内筋、浅指屈筋、深指屈筋橈側部、第1-2虫様筋)、母指球の筋(短母指外転筋、短母指屈筋浅頭、母指対立筋)を支配する
皮枝は橈側3本半の指の手掌部へ分布する

上腕の中央部において、上腕内側面の屈筋と伸筋との間を下行する神経を上腕骨に押し付けると、この神経の鈍痛を感じる事が出来る


B. 正中神経障害
正中神経の障害は上肢における末梢神経性障害の中で最も一般的である
急性外傷や慢性的な圧迫によって生じる

正中神経のほかに、橈骨神経や尺骨神経は、上肢の全長を走行する長大な神経であり、各々、肘窩を境として高位麻痺と低位麻痺の2つに分類する事が出来る

【高位麻痺】
近位麻痺は肘窩より近位が障害されて起こる麻痺で、骨折や肘関節脱臼といった外傷のほか、ストルザース靭帯付着部に生じた骨棘刺激、上腕二頭筋腱膜による圧迫、円回内筋の二頭間での圧迫などが原因となる
特徴は“祈祷師の手(hand of benediction)”で橈側3本指の屈曲が出来なくなる
また回内不全、母指対立運動の消失、ボトル徴候(bottle sign)などが見られる

【低位麻痺】
遠位麻痺は肘窩より遠位が障害されて起こる麻痺である
裂傷および手根管内での慢性圧迫(手根管症候群)で障害されやすい
手根管内で生じる神経絞扼障害は外傷、腱鞘の炎症性変化、腫瘍による圧迫、内分泌やホルモン異常(妊娠、糖尿病、閉経などに伴う)による結合組織の増殖などで引き起こされる

手根管内で生じる障害では、手指屈筋郡への運動線維の分岐が終了しているため「祈祷師の手」は生じない


C. 臨床症状および診断
正中神経領域(橈側3本半の指の手掌部)のしびれ感や疼痛を生じる
手根管症候群では睡眠時の長時間にわたる手関節の屈曲、伸展強制で、明け方に痛みを訴える事がある
運動は正中神経に支配される手掌の屈筋郡が障害される

診断には臨床症状に加え、正中神経の神経伝導検査が有用である
腫瘤が疑われるものでは、エコーやMRIなどの検査が必要となる
手根管症候群の診察手技にはPhalen徴候(手関節の屈曲位を1分間維持した場合の手根管内圧上昇による異常感覚の増悪)、逆Phalen 徴候(手関節伸展位で同様の徴候)、Tinel 徴候(ハンマーでの手根管部タップによる放散痛)などがある



【正中神経の障害部位と症状】
障害部位
原因
障害をうける筋肉
(横線で消された筋)
手の特徴
知覚障害
肘関節近位10
上腕二頭筋腱膜、ストルザース靭帯による圧迫

円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、長母指屈筋、方形回内筋、浅指屈筋、深指屈筋橈側部、第1-2虫様筋、短母指外転筋、短母指屈筋浅頭、母指対立筋
ボトル徴候
祈祷師の手
手根中央部(正中神経掌枝)
橈側3本半の指の手掌部


肘関節遠位10
円回内筋の二頭(上腕骨と尺骨頭)による圧迫
円回内筋
橈側手根屈筋
長掌筋、長母指屈筋、方形回内筋、浅指屈筋、深指屈筋橈側部、第1-2虫様筋、短母指外転筋、短母指屈筋浅頭、母指対立筋
ボトル徴候
祈祷師の手
手根中央部(正中神経掌枝)
橈側3本半の指の手掌部


手関節
手根横靭帯(屈筋支帯)による圧迫
円回内筋
橈側手根屈筋
長掌筋
長母指屈筋
方形回内筋
浅指屈筋
深指屈筋橈側部
1-2虫様筋、短母指外転筋、短母指屈筋浅頭、母指対立筋
ボトル徴候
橈側3本半の指の手掌部
特に示指、中指、環指橈側の末端



D. 治療法および予後
何をもって重症とするかについてコンセンサスはないが、一般には疼痛が高度な場合と軸索変性がある場合に手術が行われる

正中神経の単独損傷の多くは特発性であり、肘関節・手関節の過剰使用による物理的負荷が原因で発症すると考えられている


D-1. 筋力訓練
正中神経麻痺で著明に観察されるのは短母指外転筋の筋萎縮である
筋萎縮が進行し、短母指屈筋と第一虫様筋が麻痺を生じるとピンチ動作が困難となり日常生活動作の中での影響が大きくなる
筋萎縮予防、改善を目的として積極的に筋力訓練は行われるべきである










↑クリックすると、ランキング投票になります
よろしくお願いします!